東京芸大の卒展
今年も上野にある東京芸術大学の学部卒業生と院生の卒業作品展示会に行きました。
会場は大学の校舎内と東京都美術館の2会場です。かと言って両者の場所は近くて、歩いて5分程でしょうか、校内をぶらぶらしているのと大して差があるわけではありません。
彫刻の作品です。この黒がベースの透明感があってなめらかな曲線でできあがり、思わず作者にこれは何ですかと聞くと、型に麻布を引いてその上に漆を4~10mmくらい堆積させて作る。胸周りの黒の中の白は、金属、石、貝殻などを入れた螺鈿を埋めている。ダマシンというやつだ。威圧感があって凄いの一言。
金属の彫金で作った象。壁に固定されていて寂しげな趣が漂う。象の耳は外に張り出しているものだが、それがきちんと表現されていないという先生らしき人から酷評されていたが、醸し出す雰囲気からすると傑作。
絵画に馴染みのない人にも、いろいろな造形の印章を用いると、様々な表現ができるという作品。上の写真の白い石膏の塊みたいのがその一つ一つで、それを多種に用いると壁のような絵に仕上がる。石膏の下の部分には、下の写真のような細密な絵が凸版として形成されており、スタンプインキをつけるとその絵が忠実に再現される。当たり前の作品かもしれないが、ハンコ部に形成された絵の見事さは素晴らしい。
作者自身に話を聞いているが、眠る時に、自分の意識と、そこから遠ざかるものとあり、自分はその様子を比較的よく覚えていて、今回それを作品にしたという。だから自分がある眠りに落ちる時にある雰囲気と自分が融合して、溶けだすような感覚を持っている事を感じる作品が多かった。ここに掲載して良いのかという不安があるが、作者の作品として載せてみた。理解できるかどうかは別として、それが作品につなげる事ができること自身が素晴らしい。
正に自分を見つめるという事だろう。絵の精緻さと発想が素晴らしい。
魚のようなヘリウム風船を紐で繋ぎ、風にそよいでいる。そしてそれが水に浮かび風にたなびくように風下に集まっている。緩やか、たおやかな安らぎ感を与えるものだ。
これを表現するために芸大の中庭の未舗装部分の利用許可を学校側と交渉してとり、30~50cm深さのプールを作ってこれを表現したものだ。説明を聞いて分かったが、この横に土嚢(どのう)を積んだエリアがあり、これを仲間の協力を得て掘り返して、白い丸いプールを作ったという。
学園祭の時には音楽演奏などのステージになるところに作くられた、自転車。前の人がペダルを踏むと、チェーンでつながった後輪が回る。ただし、そこには自転車が6~7台が固定されていて、それがブンブン回る。何なのこれ?何を表現しているのかは感じる。
芸大の素晴らしさは、この自由な表現を認めてくれる学校側の懐の深さだ。どれもそうだ。私のような凡人の発想にない奇妙な世界観を持った作家(どれも学生)の悩んだ末の表現の多様性は凄い。これの社会的価値は如何ほどか、世界からみた芸術的価値は定かではないが、少なくともここに入り込んで仲間作りができた連中の苦悩の上にうまれた幸福感は尋常でないなと想像できる。
これからの彼らの日本だけではなく、世界での活躍を多いに期待したい。